いざ保健師実習へ!
私と同じ保健センターに配属されたのは、私を含めて3人だった。他の2人は、私よりもいくつか年下だったけど、大学病院で看護師の経験があった。現役で看護師になり、数年働いたあと、保健師になりたくてうちの学校に来たのだ。
年は違ったけど、3人できゃぴきゃぴ楽しくやりながら1ヶ月を過ごした。二人とも私よりも年下ながら、はきはきしてとてもしっかりしているので見習うことが多かった(要するにとても看護師さんらしかった)。
これは私が看護師として病院で働いてからも感じたことだが、看護師は若くてもしっかりしている人が多いということだった(病院にもよるのかもしれないが・・・)。私が思うに、病院で患者さんの急変やたくさんの人の死を看取っているうちに、しっかりとせざるをえないのだろうか。若いのにしっかりとした人が多い、という印象をもったのである。
保健センターの実習に行く前は、看護学校の時の病院実習を思い出し、どうしても気分が沈んだ。看護師さんに目くじら立てて怒られたことがよみがえってくる。“ああ、また実習で苦労するのか・・・”と気分が暗くなるのであった。
しかし、保健センターに行ってみると、その予想は嬉しいほうに外れた。現場の保健師さんたちは、驚くほど優しく、親切であったのだ。この態度の差に、同じ看護職とは信じられないほどであった。
まず、実習に行くと、看護師の実習の時もそうであったが、1日の行動計画表というレポートを出さなくてはならない。看護師の実習の時、まずこれが恐怖だった。現場の看護師さんにこれを出すと、ちょっとでもつっこみどころがあれば、ここぞとばかりにつっこまれたからだ。だから、行動計画表は細心の注意を持って綿密に書いた(どんなに綿密に書いても怒られるときは怒られるのだが)。
保健師の実習でも、同じ様につっこまれないよう細心の注意を払って書き、朝緊張しながら保健師さんに出した。すると保健師さんは「あら、偉いわねー、こんなに丁寧に書いてきてー」とつっこむどころか感心しているほどだったのだ。そしてささっと目を通しておしまい。「おい、それだけかよっ」と思わずこっちがつっこみたくなるようなあっけなさ。
保健センターでの実習は、一事が万事こんな感じで進んでいった。午後になるとお菓子つきのお茶なんかもでてきたりするのだ。病院実習を経験している人からすれば、まるで夢のような待遇!最終日は、反省会の時お茶とケーキまで買ってきてくれ、反省会というよりも送別会みたいなノリだったのだ(友達の実習先では、最終日にお鮨が出たらしい)。
しかも、保健師さんをはじめ、他の職種の人たち(役所なので他の事務の人とか色々な人がいる)は、私達を学生ではあるがきちんと社会人の一人として認めてくれ、とても親切に色々なことを経験させてくれたのだ。
看護師の実習をしてきた私達としては、これは驚きの待遇だった。というか、これが普通の大人の世界なのかもしれないが・・・。看護師の実習では、全く一人前とはみなされず、ひどい病院では虫けらのように扱われた。確かに一人前ではないので仕方ないかもしれないが、私は保健師の実習に来て、「これこそ大人の世界だ」とやっとまともな世界に戻ってきたような感覚を抱いたのだ。
他の地区に実習に行った友達にも聞いたが、大方私と同じ様な意見だった。やはり看護師の実習と保健師の実習では差があるといって良いだろう。
実習に行く前、あれだけ緊張していたのがウソのように、1ヶ月の実習は楽しく、順調に進んだ。保健センターで行なわれる色々なイベントに参加し、私達も卵ながら保健師として行動させてもらった。
私達が経験したこととは、保健師の指導を必要としている人の家庭訪問だったり、保健センターで行なわれる子どもの定期健診(1歳半健診とか3歳児健診とか)だったり、地域で生活している精神疾患を患う人たちとのレクリエーションだったりと様々だった。
そして、思った。同じ看護職でも、看護師と保健師はまったく違う視点で仕事をしているのだと(当たり前かもしれないが)。
当然のことだが、どちらのほうが重要な仕事か、という話ではない。どちらも重要で必要な仕事だ。看護師は直接的に人の命に関わる仕事だが、保健師はやはり予防を含めた広い視点での関わりになってくる。
昨今、医療費のうなぎのぼりに、このままでは日本財政が破綻するなどの声をよく聞く。医療が進むにつれ、病人は減るどころかますます増えていく。しかもこの状況であれば、医療機器が進歩するごとに、医療費はこれからも上がり続けるだろう。
そこで今後ますます重要になっていくのが、病気の予防だと思う。人々がいかに健康に暮らし、病院にいかないですむ状況を作ることが重要になってくると思う。だから、今後保健師が活躍する場面は増えてくるのではないか。実習を通してそう感じた。
それと同時に、保健師の限界もちょっと感じた。どんなにこちらが熱い気持ちで病気の予防の大切さを訴えても、結局のところ本人がやる気を持たなければその人の健康は守れないのである。それは看護師も一緒かもしれない。退院する時、一生懸命退院指導をしても一方通行で終わることもある。保健所の形だけの事業で終りにするのではなく、どうやったら人々に予防の大切さを伝えることができるのだろう、といまだに考えている私である。
次のページ>>養護教諭の教育実習